天気がいい日





いい天気だった。


今日は彼女の両親へ結婚の挨拶へ。びしっと決めたスーツで家を出る。朝から家の掃除や準備などで空気がぎすぎすしていたので、1人早めに出て新宿にて本屋をうろつく。その後デパ地下にて合流して、お土産を購入。そして電車へ乗り込む。
もう桜はほとんど散っているが、桜の木によってまだ残っているのもあるという事実に、なぜか不思議な子供ながらの感覚が蘇ってきてなんとも言えない気持ちになった。電車から見る、それら桜の木、川、田んぼ、団地・・・気持ちいい。
しかし同じ60分でも、同じ電車にずっと乗っていると苦痛なのが不思議だ。おまけにぴたっと睾丸にまとわりつくスーツにいたたまれなく、途中から席を立って人間観察を開始。
あんなかわいい子とも付き合うことはもうないんだろうなぁと結婚の挨拶の数時間前にそんなことを考えてしまう人間の本能と、結婚という制度を作り出した人間社会に生まれたことの複雑な葛藤に、これからも悩まされるんだろうなと痛感。
駅についてからラベンダーと青い花を購入して、暖かい日だまりの中、今日の台詞を考える。締めの言葉がうまく決まらず、「ご了承いただけますか」と言うと駄目と言われる可能性があるからとか、お父さんにとっては嫌なんじゃないかとか、そんな話をしつつ、結局「よろしくお願いいたします。」で話がおさまる。
駅から彼女の家までは歩いたら軽く30分はかかるとのことなのだが、散歩も含めて歩いていくことにした。びしっと決まったスーツだったので、少し気が引けたが彼女の生まれ育った地を歩いてみたかった。海が近いせいか、道路が広くとてもすがすがしい。なんと言っても天気が最高だ。
顔が焼けるとすぐに赤っ鼻になってしまう自分はさりげなく日陰のコースを選びつつ、あっというまに近所の公園へ。野球、俺も好きだったなぁと子供の頃を思い出して懐かしむ。しかしなんていい天気なんだろう。
そしていよいよ挨拶へ。最初の打ち合わせで彼女が切り出すという話だったが、いきなりお父さんが「じゃあ最初に挨拶しようか」と気を遣っていただき、いきなり挨拶モード。家から出てきたときにスーツにネクタイでびしってきまっていたので、ノーネクタイの自分は一瞬身が引けたが、考えても仕方ない。それにしてもスーツをきていると、身が引き締まるのと同時に、心まで引き締まるのが面白いなぁとか思いつつ、挨拶へ突中。
緊張はほぼゼロ。むしろ緊張するそぶりをしなきゃ失礼かと気を遣う始末。散歩中に繰り返して暗唱していたおかげかすんなりと台本通りはなしが進む。


「2人の結婚を承諾します。」


そして人生で1回だというその儀式をすんなりと終えて、家族団らんでピザを平らげながら考える。


俺、結婚するんだな。