【49想】 草枕 / 夏目漱石

草枕 (新潮文庫)
以前、1年ほど前に読んだ記憶があるが内容はあまり覚えていない。
というもの難しかったからだ。


で、今回以前購入した吉本さんの講演CDに夏目漱石についての話がたくさんあるので、また読んでみようかと思い、ブックオフで購入。しかしやはり読みづらかった・・・以前読んだ「こころ」はまだ読みやすいのだがどうもこれは読みづらい。


途中まで注釈を一つ一つ丁寧に読んでいたのだが、やはり難しい言葉や表現に苦しむ。内容は面白いのだが・・・そんな風に苦しみながら読んでいると、なんで俺はここまで苦しんで読書をしているのだろうと考えてしまい、放棄しようかと思った。ふとそんな時に、以下の文章に出会う。

「勉強じゃありません。ただ机の上へ、こう開(あ)けて、開いた所をいい加減に読んでるんです」
「それで面白いんですか」
「それが面白いんです」
「なぜ?」
「なぜって、小説なんか、そうして読む方が面白いです」


(中略)


「全くです。画工だから、小説なんか初からしまいまで読む必要はないんです。けれども、どこを読んでも面白いのです。あなたと話をするのも面白い。ここへ逗留(とうりゅう)しているうちは毎日話をしたいくらいです。何ならあなたに惚れ込んでもいい。そうなるとなお面白い。しかしいくら惚れてもあなたと夫婦になる必要はないんです。惚れて夫婦になる必要があるうちは、小説を初からしまいまで読む必要があるんです」


そうかぁとバカ素直に思って、ぱらぱらめくって気になるところを読むことにした。前回読んだときに大体のあらすじはわかっている。

いよいよ現実世界へ引きずり出された。汽車の見える所を現実世界と云う。汽車ほど二十世紀の文明を代表するものはあるまい。何百と云う人間を同じ箱へ詰めて轟(ごう)と通る。情(なさ)け容赦(ようしゃ)はない。詰め込まれた人間は皆同程度の速力で、同一の停車場へとまってそうして、同様に蒸気(じょうき)の恩沢(おんたく)に浴さねばならぬ。人は汽車へ乗ると云う。余は積み込まれると云う。人は汽車で行くと云う。余は運搬されると云う。汽車ほど個性を軽蔑(けいべつ)したものはない。文明はあらゆる限りの手段をつくして、個性を発達せしめたる後、あらゆる限りの方法によってこの個性を踏み付けようとする。一人前(ひとりまえ)何坪何合かの地面を与えて、この地面のうちでは寝るとも起きるとも勝手にせよと云うのが現今の文明である。同時にこの何坪何合の周囲に鉄柵(てっさく)を設けて、これよりさきへは一歩も出てはならぬぞと威嚇(おど)かすのが現今の文明である。何坪何合のうちで自由を擅(ほしいまま)にしたものが、この鉄柵外にも自由を擅にしたくなるのは自然の勢(いきおい)である。憐(あわれ)むべき文明の国民は日夜にこの鉄柵に噛(か)みついて咆哮(ほうこう)している。文明は個人に自由を与えて虎(とら)のごとく猛(たけ)からしめたる後、これを檻穽(かんせい)の内に投げ込んで、天下の平和を維持しつつある。この平和は真の平和ではない。動物園の虎が見物人を睨(にら)めて、寝転(ねころ)んでいると同様な平和である。檻(おり)の鉄棒が一本でも抜けたら――世はめちゃめちゃになる。

目にとまったところメモ


で、いろいろ調べているとグレン・グールドという有名なピアニストがこの夏目漱石草枕を溺愛していたという。

夏目漱石の「草枕」を非常に愛読しており、彼自身が朗読した英訳本のラジオ番組の録音が残っている。この「草枕」の主題の東洋的な芸術への姿勢はまさにグールドの後年の生活態度と重なるものがある。
グレン・グールド - Wikipedia

フォーリーから送られてきた『草枕』にグールドは埋没してしまった。以降、グールドの漱石への徹底した傾倒が始まっていく。オタワのコレクションには『吾輩は猫である』『三四郎』『こころ』『それから』『道草』『行人』が残っている。けれどもやはり『草枕』が最も好きだった。『草枕』だけには書きこみもある。

 グールドは一人っ子である。親しい従姉にジェシー・グレイグがいた。このジェシーに、グールドは『草枕』の全部を2晩にわたって朗読して聞かせた。これはよっぽどだ。ぼくはこれを知って、そうか、好きな誰かにぼくなりの『草枕』を読んであげるべきだったと思ったほどだ。
 1981年のカナダ・ラジオでも、グールドは『草枕』第1章を朗読した。英訳そのままではなく、自分で要約編集までしていた。ギレーヌ・ゲルタンの『グレン・グールド 複数の肖像』(立風書房)に収録された論文によると、この朗読はよく練られたリズム感や推進感に富んでいて、自分の声と漱石の声をひとつにしているように聞こえたという。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0980.html


調べてみるとすごい人だな・・・興味を持った。


リンク:
夏目漱石 草枕
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0583.html


追記:
解説の言葉に引っかかる

「……死ぬか生きるか、命のやりとりをする様な維新の志士の如き烈しい精神で文学をやって見たい」

こんな気持ちで生きていきたい。