【29想】 限りなく透明に近いブルー / 村上龍

限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)


村上龍氏のデビュー作品
自分が生まれる前の作品である。


途中あまりの描写に気分が悪くなる場面も多々あり
文字だけでこういう気分になるんだなぁと、
小説ってすごいなぁと思った。


そして何だろうこの読み終わった後の
閉塞感というか空虚感というか。


やはり最後当たりのリュウが狂うシーンが
とても印象的である。

僕はグリーンアイズのことを思い出した。君は黒い鳥を見たかい? 君は黒い鳥を見れるよ、グリーンアイズはそう言った。この部屋の外で、あの窓の向こうで、黒い巨大な鳥が飛んでいるのかも知れない。黒い夜そのもののような巨大な鳥、いつも見る灰色でパン屑を啄む鳥と同じように空を舞っている黒い鳥、ただあまりにも巨大なため、嘴にあいた穴が洞窟のように窓の向こう側で見えるだけで、その全体を見ることはできないのだろう。僕に殺された蛾は僕の全体に気付くことなく死んでいったに違いない。
緑色の体液を含んだ柔らかい腹を押し潰した巨大な何かが、この僕の一部であることを知らずに死んだのだ。今僕はあの蛾と全く同じようにして、黒い鳥から押し潰されようとしている。グリーンアイズはこのことを教えにやってきたのだろう、僕に教えようとして。
リリー、鳥が見えるかい? 今外を飛んでるんだろう? リリーは気がついてるか? 僕は知ってるよ、蛾は俺に気が付かなかった、俺は気が付いたよ。鳥さ、大きな黒い鳥だよ、リリーも知ってるんだろう?
(中略)
リリー、あれが鳥さ、よく見ろよ、あの町が鳥なんだ、あれは町なんかじゃないぞ、あの町に人なんか住んでいないよ、あれは鳥さ、わからないのか? 本当にわからないのか? 砂漠でミサイルに爆発しろって叫んだ男は、鳥を殺そうとしたんだ。鳥は殺さなきゃだめなんだ、鳥を殺さなきゃ俺は俺のことがわからなくなるんだ、鳥は邪魔しているよ,俺が見ようとする物を俺から隠しているんだ。俺は鳥を殺すよ、リリー、鳥を殺さなきゃ俺が殺されるよ。リリー、どこにるんだ、一緒に鳥を殺してくれ、リリー、何も見えないよリリー、何も見えないんだ。

その黒い大きくて巨大な鳥。


多くの人がその鳥に気付かずに、
蛾のように死んでいく。


自分は何となくその存在に気付いているような気がするが
それは殺せるのだろうか?


書評メモ:
村上龍 「限りなく透明に近いブルー」 ――― 第75回(昭和51年)芥川賞受賞作品 (前編) 石橋正雄の「生き方上手じゃないけれど」/ウェブリブログ
村上龍 「限りなく透明に近いブルー」 ――― 第75回(昭和51年)芥川賞受賞作品 (後編) 石橋正雄の「生き方上手じゃないけれど」/ウェブリブログ
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